某テレビ局にあてた日本介護福祉士会の「意見」について。(後編)

というわけで前回のつづき。

その3。
『「介護士」という言葉をドラマ内で使用するのは不適切か?』

回答文の締めの部分に
『「介護士」という言葉がよく使用されますが、そのような資格はありません。介護 福祉士とも大変紛らわしいものです。介護福祉士ではないのなら、「介護職」などの言葉を 使っていただきますようお願いいたします。』
とありますが、介護の仕事に就く介護職の通称として「介護士」というのは、すでに一般的にある程度浸透しており、例えば「八百屋」や「政治家」と言われるようなものです。それは厳密に言うのであれば「介護福祉士」と「介護士」はまったく違うものではありますが、ドラマなどで介護職全般をさす言葉として使うぶんにはそれほど問題とも感じません。むしろ、その違いをこれまで市民に浸透するまでしっかり説明してこなかった日本介護福祉士会(や厚生労働省)の責任とも言えます。もちろん「介護福祉士」という資格をさして「介護士」と表現しているのであれば問題なので、追及していく必要がありますが。
(※ドラマを全話チェックしていないので詳細は分からないのですが、最新話(第6話)では「介護福祉士」と「介護士」を誤認させるような表現はありませんでした)

ちなみに余談ですが、当該ドラマの介護監修は「ノーザンライツ」というウェブコンテンツなどを制作するIT関連企業と、モデルをしながら介護の仕事もしている介護福祉士の「上条百里奈」さんとのこと。
上条さんが関わっているのは分かるんですが、ノーザンライツはどのあたりでからんでいるのでしょうか。
いずれにせよ、今回のような意見書を日本介護福祉士会が公表しているということは、介護技術監修を外部の専門家に依頼するにあたって介護福祉士会のような職能団体に別段打診や相談があったわけでもなく、メディアともコネクションのある上条さん個人へ直接介護監修を依頼したのではないかと推測できます。しかも日本介護福祉士会が上条さんを広告塔として担ぎあげていないところをみると、おそらく上条さんも非会員ではないかと考えられます(もし会員なのにピックアップしていないとしたら、介護福祉士会の事務局は相当もったいないことをしています)。
もちろん刑事ドラマなどで地域の弁護士会や日弁連が直接監修に出張ってくることは考えにくく、個人や法人事務所単位で受託しているケースが多いようなので、職能団体が率先して関わるということは一般的ではないのかもしれません。

【ドラマに出てくる小道具の「訴状」まで作る――弁護士に「法律監修」の実情を聞く|弁護士ドットコムニュース】
【業務内容 映画・ドラマの法律監修|アトム法律事務所弁護士法人】

しかし、直接監修にかかわらずとも、ドラマに登場する介護場面を介護福祉士が分かりやすく解説するなど独自にできることも少なくないはずです。むしろ2割以下という会の認知度を考えれば、認知度アップのためにそれくらいはやってもらいたいものです。

【介護福祉士を取り巻く環境とニーズに関する調査【WEB 調査 一般生活者対象】結果報告書|日本介護福祉士会】

その4(蛇足だけどどうしても書きたかったこと)。
『そもそも介護福祉士会に対して、ドラマで表現されていた介護現場の様子の真偽を問うメールなど来るものなのか?』

実はこの疑問が真っ先に思い浮かびました。
※ここからはまったくの憶測なのでさらっと聞き流していただきたいのですが(笑)、テレビ局にわざわざ進言するためにありそうな架空のメールをもらったという体にして、より会として発言しやすくしたのではないかなぁ…と。日本介護福祉士会が一般市民を対象に行なった調査では「日本介護福祉士会を知っていますか」という項目で「知らない」と答えた割合が8割という結果が出ていて、市民が介護職の職能団体として日本介護福祉士会にアクセスできるかは微妙です。もちろん調べれば見つけられるでしょうが、自分の職種のことをあえて悪く言う理由もない介護職の当事者団体にわざわざ相談したいと思うでしょうか…なんて、ちょっと発想が飛びすぎましたねははは(※憶測終わり)。
どうあれ、意見書のレベルの低さから、結果的に会の組織としての浅さを露呈する形になってしまってたいへん残念でした。

と、ここまでつらつら書いてきましたが、全然要点を絞れませんでした(汗)。まあでも、改めて職能団体のあり方について考えるいい機会になった分だけでも良しとしたいと思います。
「専門性とは?」「発信力が弱い」などと内外で言われている福祉の専門職ですが、ロビイング活動には欠かせない職能団体の組織率も一向に伸びず、社会保障政策のなかで存在感を示すにはかなり心もとないと言えます。今回の日本介護福祉士会のアクションもおそらく「しないよりはマシ」というレベルでは良かったのかもしれませんが、その程度でとどまっているようだと、専門職として生きのびる道がなくなるのも時間の問題です(もちろん将来においても介護の仕事そのものはなくならないでしょうから、そこで存在意義を見いだせなければ有資格者であるアドバンテージがなくなっていくことになる)。そうなる前に、組織からどんどん外へ飛び出し、自分たちの専門性と実生活への貢献性をなりふりかまわずにあまねくPRしていくために、もっともっと積極的に行動していかなければなりません。

今日の福祉専門職にいちばんに求められることは、イメージ戦略でも上級資格の創設でもなく、「生活アセスメント」「福祉サービスマネジメント」「権利擁護」「社会変革」という自分たちの専門性をしっかり見つめ直し、誰からもアクセスしやすくし、市民にとって「使える」ことをPRすることだと、自戒も込めて強く訴えたいと思います。(了)
  
長文でしたが、ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました~<(_ _)>

あ、どうでもいいほんとうのよだん。
方言指導の方がうまいのか、このドラマのキャストの方々はみな福島弁がお上手で感心いたしました(笑)。
詳しくはドラマを見てみてね!(けっしてまわしものではございません)