某テレビ局にあてた日本介護福祉士会の「意見」について。(前編)

2020年5月12日

先日、某テレビ局で放送されたドラマ内で、介護職員である登場人物が介護現場で長時間労働させられたり、上司にパワハラまがいの行為をされたりという描写があり、「介護職のイメージが不当に悪くなる」ととして日本介護福祉士会が意見を申し述べたという報道がありました。

【月9ドラマでの介護の描写、「配慮を」|医療介護CBニュース】
【ドラマ「いつ恋」に配慮求める意見書 日本介護福祉士会:朝日新聞デジタル】
【月9ドラマの介護現場描写に配慮を 日本介護福祉士会がフジテレビに意見書 – ねとらぼ】

よかったですね、たくさんメディアで取り上げてもらって。
これで介護職のイメージがよくなりますね。
…って、そんなわけないじゃないですか。

ちなみにその日本介護福祉士会の公表した意見書がこちら。
【『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』に対する意見 – 公益社団法人 日本介護福祉士会】
http://www.jaccw.or.jp/news/index.php#t416


『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』に対する意見書(1)の画像です 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』に対する意見書(2)の画像です
(※クリックすると大きい画像を表示します)

正直絶句しました。
言いたいことは山ほどありますが、できるだけ要点を絞ってピックアップしていきましょう。

その1。
『日本介護福祉士会という組織としての意見書に、「私」という個人の所感を述べる意味があるのか?』

回答文の冒頭、
「介護職員の給与は低賃金と言われていますが、かなり格差があると感じています。厚生労働省の発表している調査では、他産業の平均給与と比較すると介護職の賃金は低いと出ていますが、女性ではあまり差がないとも言われています。」
と述べています。また介護職員の賃金に関して、
「どのような事業所に勤務しているのかによっても賃金の違いがでると思いますが、その他雇用 形態や経験、能力などによって給与は違ってきます。私の知る限りでも養成校を卒業して、30歳代で管理職になり、それなりの報酬を得ている介護福祉士はたくさんいます。」
と言及しています。
これはおそらくこの文章を考えた内田副会長の個人的所感と思われますが、直接的な介護場面で出る言葉ならまだしも(それも望ましいとも言えませんが)、データを示すこともなく、「感じています」「言われています」「たくさんいます」と言われてもまったくもって説得力に欠けます。特に賃金格差に関しては「女性ではあまり差はない」などと書かれていますが、差がないからよいということはもちろんなく、他の職種と協働で女性労働者たち全員の労働権を取り戻し、守ることに取り組むべき問題であることは明白です。しっかり「この資料ににこう書かれているように、こういう状況なのです」とデータとともに科学的な説明ができなければ社会的な発言力は増していきません。

【介護職の賃金 他職種とは約9万円の格差 男女差や地域間差も|けあNews by けあとも】
【介護職員の平均年収は全職種平均より200万円以上も少ない!?「介護職員=低賃金」という一般常識を裏付ける各種データの衝撃!|みんなの介護ニュース】
【社会保険審査会 介護保険部会「介護人材の確保関係」(PDF)|厚生労働省】

その2。
『介護現場の労働環境は本当に「そんなに言うほど悪くない」のか?』

労働環境に関しては
「確かにご利用者への介護の質が悪く、また職員の処遇もよくないところはあると思います。ただ、全部の事業所がそうなっているわけではありません。」
と一定の事実を認めてしまっています。
それならドラマで表現されていることだって、あくまでリアルな介護現場の一部を切り取って見せているのだと言われてもしかたありません。そういう介護現場が存在するのを認めていまがら、会は「不当にイメージを悪くしている」と断言する資格はあるのでしょうか。たしかにマスコミの介護職に対するネガティブキャンペーンはかなり強烈と言える面もありますが、ドラマの一場面だけを見て「不当表示」と意見するより、その場面のどういう点が事実とどのように異なるのか、マスコミはもちろん市民に対しても種々のデータを提示するなどして、分かりやすく説明する義務を果たすべきでしょう。

また、
「よくない事業所には利用する側も働く側もしっかり意見を言うなりしていかないといけないと思っています。入職する際も事業所の内容や職員の処遇、労働環境などをよく確認して頂きたいと思います。」
と言われても、どこでどうやってその情報を手に入れることができるでしょうか。
介護施設に就職しようとするときに法人や事業所のウェブサイトはチェックするでしょうが、第三者評価などまで目を通す就活生は少ないでしょう。またネットや人づての口コミも正確性に欠け、介護職に就いたことのないひとにとって正しい情報を選びとるのは容易ではありません。確認できたところで、実際にその職場がブラックかどうかということは、働いてみないと分かりません。男性と女性、ベテランと新人、有資格者と無資格者等々、あるひとには働きやすいが、あるひとには働きにくいということもあるでしょうし、何より職場の雰囲気を事前の見学や面接時だけで把握するのは業種にかかわらず至難の業です。逆にアルバイトや介護現場実習である一定期間その職場で過ごすことができれば、自ずと職場の雰囲気も見えてきます。ただ、バイトや実習で入ったところに常勤として勤務できるかどうかはまた別問題です。
これらの問題に対応するためにも、職能団体は複数の現場を経験できるような実習プランの提案や市民向けの現場体験ツアー、企業や学校等への出張講座、ソーシャルメディアの活用、他業種への働きかけなどを通して、現役の福祉職と彼らが活躍する現場とその養成校やその学生、それらに興味をもってもらう対象の一般市民を結ぶためのハブにならなければいけないのですが、そのための活動が圧倒的に足りていません。

そういった面を踏まえて、ではどうやったら介護職に就きたいと思ってもらえるかということを丁寧に考えていく必要があります。日本介護福祉士会では「介護のイメージアップ戦略等調査研究委員会」なるものを設立し、報告書もまとめていますが、あまり表で見かけません。ただ、イメージアップ戦略ばかり先行してしまっても、実際の介護労働環境よりそれこそ不当によく見せかけることになってしまっては逆効果です。実施した研究・調査結果などは概要版と詳細版に分けてわかりやすくまとめ、プレスリリースとしてできるだけ多くの業界・団体に配布・PRした上で、オープンデータとしてそれらを有効的に使ってもらえるよう相手に応じた提案をするところまでひとまとめに提供したいところです。そうすればデータを各所で検証してもらって、それに対するフィードバックをもらうこともできますし、内部だけでちまちまやっているよりデータを活かせるというものです。職能団体たるもの、至らない部分があれば、「どうすればそれを改善できるか」「改善するために私たちはここまでやっている」ということまで組織としてしっかり言及していく、そうでなければ専門職を組織化している意味をなさないのではないでしょうか。

【介護のイメージアップに関する事業 – 公益社団法人 日本介護福祉士会】

要点をまとめるといいながら、全然まとまらなかったので後編につづく!

※後編はこちら※